料理
朝、僅かな間、朝陽が顔を出してはいたけれど、お昼が近づく頃には完全な曇り空になってね。結局夕方迄何とか保っには保ったんだけれど、今にも降りそうな空模様だったよ。
散歩する頃にはウグイスの鳴き声と、親爺さんのクシャミの音だけが響いていたんだ。このシーズン、例年に比べて花粉症が酷い様子でね。目をさかんにこすっているよ。ケンニャンも職場がスギ林の多い地域だからね、やはり辛そうだよ。
毎日、同じ事を話しているけれど、朝晩の食事は親爺さんが作っているんだ。
これまでの処、皆が揃って親爺さんの調理した物を食べた事がないんだ。遅くなるからって、外食したり、医者から止められたからと手を付けなかったり、差し入れされた食材でお腹が一杯になったり、出来合いの調理品を食べたりでね。
カレーもシチューも、結果的に数日間かけて、親爺さんが独りで食べたよ。
親爺さん、料理の味音痴じゃあないよ。独身時代もそうだけれど、数年前の単身赴任の期間、毎日自炊していたそうだからね。ただ、男の手料理を自慢するような技量は持ち合わせていないんだ。お腹の必要を満たすための料理だね。
それに比べればマユちゃんの父さんはね、男の手料理好き派でね。時折、寿司をにぎったり炊き込みご飯を作ってね、娘夫婦に差し入れしてくれるのさ。親爺さん達もお相伴にあずかってね。評判は良いよ。
ケンニャンも時折料理をするよ。海外にいた頃、友人達から教わったらしいエスニック系の料理が多いね。親爺さん、悪くはないって。
マユちゃんは、冷蔵庫に有り合わせの食品で何かをチョイチョイとこしらえるんだけれど、それが好評でね。色々な味をプラスするから結果、濃いめの味付け。典型的な銚子ッ子の味だね。銚子っ子は濃い味が好みらしいんだ。
母さんの料理は学校給食。そう言っておくよ。その癖、本人は食べ歩きが好きでね、それが過ぎて病気になって、体調が改善されたらまた、食べ歩く。
ここ数日、ようやく味覚が徐々に戻って来たとかでね。そしたら親爺さんに、リハビリがてら外出すると言い残して出掛けたよ。
夕方戻ってきたからアタシが聞いたら、犬吠埼で気になっていた民宿があって、そこで煮物を買ってきたんだって。観たらね、味付けの濃い様子さ。懲りない人だよ。
* 母さんの誕生祝い 銚子茶屋で
その時、港で出合った釣り人から烏賊を一匹戴いたそうでね。親爺さんに渡して「何とかしておくれ」って。親爺さん、烏賊を料理したことなぞないからね。しょうがないさ。まな板の上で切り開いてね、オーブンで焼いたんだ。それだけ。
端を少し齧ってみたら、噛んでいるうちに塩味が出て、素朴な美味さがあったよ。
そんな訳でね、今夜は豚汁をつくるんだってさ。親爺さん、経験あるの?。
ネットのレシピを参考にするってさ。またまた独りで食べ続けることになるんじゃない。既に母さんは、自分で買って来た煮物を抱え込んでいるよ。
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